小 説 「 S A I K A I 」 |
第35話
昭和58年4月16日
とても暖かい春だった。
いつものように、早朝5:30の都営6号に乗り、芝公園から大手町にむかった。
沢田とふたりで、今日も舎利番だ。
沢田は、今月の1日より札幌の高校を卒業し、新卒で我が「甚八 新大手町店」に配属となった。
甚八では初めての後輩である。
社会人一年生の沢田はまだ、一見高校生に見えるほど幼い。
自分自身もちょうどこれくらいのときに、この世界に入ってきた。
多分こんなかんじだったよなぁ・・・って思う。
沢田と違うのは、俺は高校を中退したことである。
しかも突然進路を考え、就職した自分とは違い、彼はいろんな進路を考え
将来のことを考えて、「甚八」に入社したのである。
ちょっぴり、うらやましくもあったが、社会に出たのは、
沢田より半年ぐらい先に出たのだから、今はプラスにとらえている。
この世界は、まずは、経験年数がものを言うからだ。
自分は、21歳と8ヶ月なのだが、「千留屋」「二番星」「出島」の3軒の料理屋で修行し
現在は4軒目の修行場所として、ここを選んだ。
そして、東京で修業した後、ひとまわり大きくなって、また札幌ススキノの
「寿司の出島」に戻るという計画なのである。
はじめて、お客様に握った寿司が思い出される。
そのときのお客さんは、銀座に本社があるという、ツタモト創業の高橋さん。
お客様の前にあわびの寿司を出し、ネタがツルっとすべった
という恥ずかしかった時のことが思い出される。
出島に帰り、堂々と高橋さんに寿司を握ってあげたいといつも思っている。
そんなことを考えながら、先輩の板前さんたちのエンソ(朝食)の準備をしていた。
そのとき、お店に1本の電話がはいった。
「修人く〜ん 札幌からでんわだよ〜・・・!」
きっと出島のママに違いない。と思い電話に出た。
「修人!大変だよ。出島が火事で燃えちゃったヨ!・・・・・」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
つづく