小 説 「 S A I K A I 」 |
第9話 もしかしたら春 ?
思い切って、お茶を誘ってみた。OKだった。
となりの喫茶店にはいり、バスの最終時間まで、いろいろ話をした。
レイちゃんは高校三年生で俺と同じ歳だ。卒業したら保母さんになる学校にいくらしい。
彼氏はいる様子だったが、なんだか別れそうな話だ。
俺はなぜかその別れ話の相談役となってしまった。複雑・・・・・・。
何をどう話したかもう忘れたが、またタイミングがあったら、
お茶を飲む約束をして別れた。
それから、何度となく、一緒にお茶を飲み、たまには大通り公園で、
バスの最終まで、いろいろ話をした。けっこう楽しかった。
板前修業に女は禁物?などと硬派で通していたが、けっきょく友達がほしかった。
俺も、今までの本当のことを話し、レイちゃんは、
俺自身を理解してくれるかけがえのない友達となった。
■ 板前修業のはじまり
話は、入社当時までさか戻る。
仕事は楽しかった。
一番最初は、中華の佐藤さんの手伝いだった。
佐藤さんの担当は、ラーメンとそば、中華丼だった。
女性だったが、パワフルで男勝りの気前の良い女性だった。
俺は佐藤さんの下で、鍋をあらったり、ラーメンの具を入れたり、
そばをゆでたりが俺の仕事だった。
ちょうど、1ヶ月ぐらいたったころ、俺は白菜を切っていた。
なんとばっくり指を切ってしまった。
イテっ! 結構 血が流れた。その血を見るとさらに、血の気がひいてクラっきた。
心配してチーフが近くまで来てくれた。
チーフ 「よくやった!」
俺「・・・・・・・・・・・・・・・」なんで、手を切ったのに、よくやったなの?
チーフ「一人前の板前になるためには、三升の血を流すものだ。
これで、おまえも一人前に近づいたな!」
えっ 3升の血を流さなければ、一人前になれないの?
俺の板前修業のはじまりだった。
一人前になるまであと53.99リッターだ。
■ 和食部門への移動
3ヶ月ほどたち、新しい人が中華担当に入社してきたので、
俺は和食部門に配置された。
和食部門といっても、俺の担当は、味噌汁もり、鍋焼きうどん、カツドンが主な仕事。
和食部門は俺のほかに男性2名、
チーフと二番手の板前の筒井さんだ。
気さくでよくしゃべるチーフにくらべ、
筒井さんは、めったにしゃべらない。
目つきもするどい。
朝もなんだか、二日酔いなのかおっかない。
いかにも、渡り職人風?の人だ。
なんだか、チーフとも仲が悪そうだ。
チーフも大好きだが、この筒井さんは硬派でかっこいい。
職人をめざすなら、筒井さんのようになりたいと思った。憧れの存在だった。
ここでは、たくさんのことを覚えた。
My包丁も購入した。まずは、薄刃を購入。
野菜を切る四角い包丁だ。
キャベツの千切りは、楽しみだった。まずは、包丁が甘く研げないとうまく切れない。
ヒマさえあれば包丁を研いでいた。
はじめて切ったキャベツのことは、いまでもよ〜く覚えている。
キャベツの4分の1ぐらいを習ったとおりに自分なりに切った。
えらく細く切れた。
包丁も切れるし、これなら大丈夫?と思いチーフに見てもらった。
気さくなチーフは、キャベツを見るなり、職人の目に変わり、
「こんなもの使い物にならない!」
といって せっかく丁寧に切ったキャベツをゴミ箱にすてた。
チクショー、俺は頭にきた!